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巨大食道症

15年05月31日

 巨大食道症とは、食道がび漫性に拡張し、運動性が低下している病態で、ヒトと違って普段から地面に対して平行になっている犬や猫では、症状が強く現れるため臨床上大きな問題となります。
 巨大食道症は、先天性巨大食道症と後天性巨大食道症の2つに分類されます。非常に多くの品種が先天性巨大食道症おるいは特発性巨大食道症の素因を持っていることが報告されており、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ゴールデン・レトリーバー、グレート・デーン、グレーハウンド、アイリッシュ・セター、ラブラドール・レトリーバー、ミニチュア・シュナウザー、ニューファンドランド、ワイヤーヘアード・フォックス・テリア、シャー・ペイ、シャム猫などが代表的です。本邦ではミニチュア・ダックスフンドにおける発生も多いと言われています。
 先天性巨大食道症の原因はいまだ完全には明らかにされていませんが、多くの症例で求心性迷走神経障害が認められ、逆に遠心性迷走神経にはあまり障害が認められないことは分かっています。後天性巨大食道症の原因は、副腎皮質機能低下症や甲状腺機能低下症のような内分泌疾患、重症筋無力症や多発性筋炎、自律神経障害などといった神経筋疾患、鉛中毒や有機リン中毒といった中毒性疾患、その他重度の食道炎などといった様々な疾患が基礎疾患として挙げられていますが、実際には多くが特発性であると言われています。
 巨大食道症の主な症状は、吐出、嘔吐、発咳、呼吸困難、体重減少、流涎、鼻汁などの非特異的なものですが、後天性巨大食道症の場合には基礎疾患の症状(甲状腺機能低下症における肥満や脱毛、重症筋無力症における全身性の虚弱など)が同時に現れることもあります。
 巨大食道症の診断には、X線検査が欠かせません。多くの巨大食道症の症例では空気や液体を含んでび漫性に拡張した食道が確認されます。また、巨大食道症において併発しやすい誤嚥性肺炎の評価も合わせてこなう必要があります。一部の症例では造影X線検査を行う必要があります。血液検査は巨大食道症の鑑別診断が出来ることはほとんどありませんが、後天性巨大食道症の基礎疾患や合併症の存在を特定するためには必須の検査になります。
 巨大食道症の治療は、基礎疾患が特定されればそれに対する治療を行うことで改善がみられることもありますが、前述の通り後天性巨大食道症の多くは特発性であるため、治療は困難です。現在のところ食道拡張を改善させる有効な治療法はなく、食道の運動性を亢進させる薬物も見つかっていません。そのため、治療方針は主に栄養管理と誤嚥性肺炎の防止となります。吐出および誤嚥性肺炎の防止の為、テーブルフィーディングで食事をとらせたり、食後や寝る前の10~30分間は立位にし、食道内容物を胃内に流れやすくするなどの処置を行うことが推奨されます。テーブルフィーディングや食後の立位保持を行っても、削痩が見られたり、誤嚥性肺炎を繰り返す場合などは胃造瘻チューブの設置も検討します。      T.H.