めざましい獣医療の発展によって、家庭で飼育されている猫の平均寿命は延びてきています。ガイドラインでは猫の高齢期を11歳以上としており、2021年の犬の平均寿命は15歳を超えるという報告があり、家庭で飼育されている猫の6割以上が高齢期に入っており、飼育猫の高齢化が進んでいます。
高齢になると感覚機能の低下や、活動性の低下、寝る時間が増えるなど、様々な変化が生じるようになります。
猫にとって快適な環境づくりのために5つのコンセプト(柱)がガイドラインの中で述べられています。猫の年齢に関わらず、すべての猫の生活環境に置いて、まずは5つの柱が満たされていることが大切です。
推奨環境の5つの柱
シニア猫は様々な疾患を抱えていたり、加齢にともない若いころと同じように活発に動くことができなくなります。
第一の柱:
安全で安心できる場所を用意すること
猫にとって安全な場所とは、誰にも邪魔されずに安心でき、逃げ込むことができる場所です。
一般的には猫は高い所を好むが、シニア猫においては関節炎などの影響で、高い場所へ飛び乗ることを避けるようになることがあります。
シニア猫にとって安全で安心できる場所は、猫が入りやすい高さにあり、アクセスしやすい経路にしておく必要があります。
気に入って休んでいる場所にいるときは、飼い主や同居猫、同居動物に邪魔されることなくリラックスして過ごすことができるようにしましょう。
第二の柱
猫の必要物資を複数用意し、環境内に複数箇所、それぞれ場所を離して設置すること
猫の必要物資とはフード、水、トイレ、爪とぎ、休息/就寝場所などのことです。
フード
同居猫や同居動物がいる場合は、それぞれの食事を離した場所で与える方がシニア猫にとってストレスが少ない。
頸部痛や関節疾患のあるシニア猫にとってフードの容器を高くすることで食べやすくなります。
1日に食べたフードの量を記録しておくことは、体重減少を防ぐうえで有用です。
水
シニア猫の飲水容器は、幅の広いものが勧められます。
噴水式給水機を使用したり、水に好みの味をつけることで飲水量の増加につながる場合があります。
トイレ
大きくて、入り口が低いトイレが良い。
スロープを設置したり、夜間でも見えやすいように常夜灯などを設置しましょう。
トイレに入れる猫砂の量は、少なくとも3cmの深さが推奨される。砂が深すぎても使用しにくい場合があります。
爪とぎ
若いころは垂直面への爪とぎを好んだかもしれないが、シニア猫になると関節炎などの影響で、身体を伸ばすことや立ち上がることを避けるようになり、垂直よりも水平の爪とぎを好む場合があります。
シニア猫は爪とぎだけでは伸びた爪の十分な手入れができない場合もあるので、定期的な爪の手入れが必要です。
休息/就寝場所
休息場所や就寝場所に敷く素材は、シニア猫の体の状態にあったものを用意しましょう。
第三の柱:
遊びや捕食行動の機会を与えること
精神的な刺激が認知機能の低下を妨げるという報告からも、シニア猫に適切な刺激を与えることは健康維持やストレス解消につながります。
若い猫の様に活発におもちゃを追いかけたり、ジャンプするような動きは減るが、シニア猫に、遊びや捕食行動の機会を与え、捕食本能を満たすことは大切です。
遊びながらフードを出すことができるおもちゃや、端に毛皮や羽根が付いた釣り竿や杖などを動かし、獲物の様に見せたりする。
若いことのように走り回っておもちゃを追いかけることは期待できないが、その場で手を動かすだけでも捕食本能を刺激することができます。
シニア猫をおもちゃで遊ぶときは、1回の遊びは数分程度の短い時間で十分です。
第四の柱:
好意的かつ一貫性があり、予測可能な人と猫との社会的関係を構築すること
猫との交流は決して無理強いせず、終始猫のペースで行いましょう。
以前は抱き上げられたり、飼い主の膝の上で寝ることを好んでいた猫でも、飼い主の膝には乗らず、そばで撫でられることだけを好むようになる場合もあります。
いかなる状況においても、強い口調で叱ったり、叩く、押さえつける、大きな音で脅かすような嫌悪刺激を使った罰を与えない。
シニアになって、疾患の治療の目的で継続的な薬の経口投与が必要になると、猫が嫌がっているにも関わらず無理に口に薬を入れることの繰り返しにより、関係が悪くなることがあります。
経口投与の際は猫に好物を与え、不快感を軽減させてあげると良いでしょう。
第五の柱:
猫の嗅覚の重要性を尊重した環境を用意すること
シニア猫の住み慣れた環境中の匂いを乱すような、匂いの強いものや刺激臭のあるもの(たばこの煙、アロマキャンドル、ルームスプレー、化学薬品の入った製剤など)の使用はさけましょう。
新鮮な外の空気を室内に取り入れましょう。
動物病院への来院ストレスを軽減するために自宅で出来ること
シニアになって定期的な動物病院への来院が増えると、動物病院への印象が悪くなることで、動物病院へ猫を連れていくためのキャリーケースの印象も悪くなるという現象が起こります。
普段から、キャリーケースが猫の安全な休息/就寝場所となるように、キャリーケースを猫の生活スペースに出して置き、中にふかふかのマットを敷いたり、冬場であればヒートマットを敷いておきたい。猫のフードや好物をキャリーケースの中で与えることも良いとされています。
また、通院に対して猫がストレスを感じている様であれば、内服で不安を軽減することが可能です。
もともと猫は、環境の変化にストレスを感じやすく、環境の変化を好まない動物である。可能な限り安定した生活環境に整え、猫にとって予測可能な日常生活にすることで、猫の不安を減らすことができます。
高齢の猫ちゃんが抱える身体疾患を明確にし、適切な治療を施したうえで、その猫に会った環境的アドバイスも行ってければと考えています。シニアの猫ちゃんで何か困ったことがあればいつでもご相談下さい。
Y.N