南が丘動物通信

米国獣医学成書にみられる猫の甲状腺機能亢進症の推奨される治療は?知ってほしい情報。 20年09月12日

米国のもっとも著名なDr.Douglas Slatterの名著であるTextbook of Small Animal Surgeryには「放射性ヨード法が猫の甲状腺機能亢進症の最良の治療法であると考えている。もし施設が利用できない場合には次に甲状腺切除術が推奨され,長期にわたる抗甲状腺薬治療は入院・麻酔及び手術にかなりの危険が伴う場合にのみ薦められる」と書かれております。しかし、日本における治療の状況はどうでしょうか。長期にわたる抗甲状腺薬療法(内科療法)が第一選択としておこなわれることがまだまだ多いように感じています。どうして長期にわたる抗甲状腺薬療法が推奨されていないのでしょうか。それは長期投薬における副作用の多さ、甲状腺ホルモンの値が良く、うまくコントロールできているように見えても進行していく病気であること、高血圧など治療困難な症状が残ることがある(診断時に14~19%が高血圧で、治療開始後に20~25%が高血圧を発症すると言われ失明に至る例も多い)こと、根治治療にはつながらないこと、寿命の長さが限られていることなどによるものと考えられます。本邦においては残念ながら放射性ヨード法を行うことは法律的な壁もありできません。しかし、近年になり海外においても、放射性ヨード法が甲状腺機能低下症を起こす確率が高いことや寿命の長さに対する評価が思ったほど良くない報告があること、高額治療であることもあり、根治療法としての手術の重要性が再確認されてきています。甲状腺機能亢進症である猫のご家族の方々には知っていただきたい情報の一つです。  S.S