どんな病気?
僧帽弁閉鎖不全症は犬の代表的な心臓病で、特に8歳齢を過ぎた小型犬で多発傾向が多い心疾患である。僧帽弁閉鎖不全症は、心臓の僧帽弁に粘液腫様変性という病変が生じることで、心臓の弁が上手く閉まらなくなってしまう疾患です。なぜ中年期以降の小型犬の僧帽弁にこの病変が好発するかは不明です。
僧帽弁逆流の悪化に伴い運動不耐性、疲れやすいなどの症状が出てくるが、徐々に進行する症状であるため、気づきにくい変化です。散歩時の様子は当然の事、自宅内や院内の様子も重要で、若いころしていた・できていたことのうち、最近しなくなったことを注意深く観察することは重要です。
さらに僧帽弁逆流が悪化すると、心臓が拡大してくることで気管や気管支を圧迫して頑固な咳が出てくるので、咳がなかなか治まらない場合は要注意です。
一緒に暮らすときの注意点は?
1.塩分摂取量を抑える
塩分(正確にはナトリウム)の過剰摂取は血圧を上昇させ、心臓にも負担をかけることは一般常識である。「大した塩分量ではない」と思っても、小さな犬には過剰摂取であることが多く、実際に過剰摂取が原因で心原性肺水腫を発症した症例も多いため注意が必要である。
2.体重を落とさない
「脂肪(または肥満)」は心臓の負担になるから、心臓病の犬は減量すべき」という考え方は過去の事である。僧帽弁閉鎖不全症と診断されてから体重が増加した、低下した、不変だった犬の生存期間を解析した研究では、体重が増加した犬の生存期間が最も良好だった。この詳細な機序は不明だが、体重を低下させる際に、脂肪だけでなくたんぱく質も失われることが原因ではないかと考えられている。やや大げさに表現すれば、心臓病の犬がダイエットするということは、心筋にもダイエットを強いることになる。
3.たんぱく質の摂取を心がける
主にたんぱく質で構成されている心筋組織を栄養面でサポートするためには、十分な量のたんぱく質を摂取させることが好ましい。現状では、この「十分な量」が1日当たり何グラムなのかまでは調査されていないため、フードに何かをトッピングする際にはたんぱく質を優先して選べばよいだろう。
4.散歩に出かける
僧帽弁閉鎖不全症の重症度は無関係に、犬が散歩に行きたいアピールをするなら、できるだけ散歩に連れていた方が良いという考え方が広がってきている。その根拠は、①散歩が僧帽弁閉鎖不全症に有害であることは知られていないこと、②欧米の獣医心臓専門医は皆、散歩を推奨していること、③散歩は全身循環を改善し、排便を促す作用があり、同時に空腹感を刺激し、体重減少に抑制的に作用すると考えられること、そして④家族と犬の良好な関係を維持する上で重要と考えられること、などがある。家族の方がゆっくり歩くスピードに犬が小走りでついていく程度のスピードが理想で、時間は30分でも1時間でも構わないが、犬が散歩の意欲を示さない時は止めておきましょう。
5.犬糸状虫症を予防する
たとえ僧帽弁閉鎖不全症そのものは軽度であっても、犬糸状虫症に感染して心臓に新たな負荷が生じれば、心臓病は急速に進行する可能性が高まる。確実に予防すべきである。
6.自宅での安静時呼吸数を数える
これはきわめて重要で、犬の自宅での安静時呼吸数は体格や年齢に関わらず、40回/分を越えないことに加え、僧帽弁閉鎖不全症の犬では、この数値を上回った場合、非常に高い確率で肺水腫であることがこれまでの研究で明らかになっている。
僧帽弁閉鎖不全症は、食生活に関わらず、老化現象が心臓に出たようなもので、長生きしたからこそかかってしまう病気です。いままで書いてきた注意点に気を付けて、愛犬によく声をかけてほめるようにしてあげてください。家族が愛犬に話しかけたり、ほめることは犬の体調に良い影響を及ぼすはずです。そう信じましょう。
Y.N.