近年では家庭動物の高齢化に伴い、犬猫の腫瘍性疾患も多くなってきました。腫瘍治療の3大柱といえば、外科療法、放射線療法、そして化学療法である抗がん剤療法です。当院でも抗がん剤治療を行っている患者さんはとても多く、代表的な疾患でいうとリンパ腫は最もがん剤の効果を得ることのできる腫瘍であり、また手術後の再発・転移防止を目的に血管肉腫、肥満細胞腫などで適用されます。
しかし抗がん剤治療を飼い主さんに説明するときにあまり好意的に考えられない方が多いような印象を受けます(当たり前かもしれませんが)。人医療において抗がん剤が患者さんにとって負担の多いものであることが理由かもしれませんが、動物医療においては人ほど重篤な副作用が出ることは多くありません、むしろそれはまれなのです。動物医療において、治療において長期的に生活の質を大きく下げることはその子の生きている意味を失うことになります。なので副作用は最小限に、だけれども治療効果も十分なものを見込めるように抗がん剤の計画が立てられています。抗がん剤で苦しんでいる動物さんを見るのは飼い主さんの苦しみにもつながってしまうからです。
抗がん剤の副作用で代表的なものは骨髄抑制(血球が少なくなり免疫が弱くなる)、消化器症状(食欲不振、下痢、嘔吐)、脱毛です。しかしいずれもさほど重篤なものが現れることはまれです。もちろんいくつかの抗がん剤を併用する場合は、どれかひとつは体質的に合わないことがありますが、それも対症療法で最小限に抑えることができます。そのため抗がん剤療法は動物のがん患者のおいては付きあいやすい治療法といえます。
患者さんの状態や腫瘍の種類によっては、もちろん適用の是非を検討する必要があるのは言うまでもありません。飼い主さんとよく相談してベストの治療法を決めていきたいと思っています。
T.S.