南が丘動物通信

猫の多発性嚢胞腎 15年10月04日

猫の多発性嚢胞腎はペルシャの家系で多発する嚢胞性腎疾患で、これまでの研究でペルシャと交雑のある長毛種の猫や、ペルシャ以外の長毛種で遺伝的な背景が証明されています。近年では長毛種だけでなく、アメリカンショートヘアにもみられることやその他の短毛雑種でも発症の報告がみられます。

多発性嚢胞腎は、ヒトでも猫でも腎尿細管繊毛に存在するpolycystin1PC1)をコードする遺伝子PKD1の遺伝子変異が原因で引き起こされる疾患です。本症における嚢胞形成メカニズムについてはいまだ解明されていない部分もありますが、PKD遺伝子がコードするポリシスチン蛋白の発現が正常腎より嚢胞腎ではきわめて高いことが嚢胞細胞の増殖と嚢胞内への液体分泌亢進の原因の主要な部分を占めているのではないかと考えられています。嚢胞形成の進行速度は個体によってさまざまですが、比較的ゆっくり進行し嚢胞の数が少ないうちは臨床症状を示しません。嚢胞は大きくなると周囲の腎実質を圧迫し、次第にネフロン数の減少を招き、慢性腎臓病(CKD)の病態を呈してゆきます。

臨床的には、両側性の腎嚢胞形成による腎不全として認められますが、前述のように無症状で長期間経過し、他疾患の画像診断の際に偶発的に発見されたり、中年以降の腎不全で発見されたりすることが多くあります。画像診断が極めて有効で、特に腹部超音波検査で嚢胞の個数や大きさを確認できます。本症では嚢胞は腎臓に限局していることが一般的ですが、少ないながらも肝臓や膵臓に認められることもあり、その場合CT検査が有用です。

嚢胞内の液体は感染や出血がなければ透明ですが、嚢胞内の感染の有無が生存日数に関わることが示唆されているため、尿や嚢胞液の細菌感染を定期的にチェックすることは重要となります。

本症を発症してしまった猫に対しては、嚢胞形成を止める根本的な治療法はなく、対症療法が中心となります。長い経過をたどることが多く、慢性腎臓病の管理に準じて治療を行うことが一般的です。次第に大きくなる嚢胞形成によって腎実質を圧迫することが腎臓の線維化につながるため、定期的な穿刺による嚢胞液抜去が行われることもありますが、嚢胞感染の発生を起こさないように十分な注意が必要となります。

繁殖に供する猫の遺伝子検査の普及と、腎臓に嚢胞を持つ未発症の猫を繁殖に供さないことが本症の広がりを防ぐ手段となります。PKD遺伝子の変異を検出することで確定診断が可能であり、未発症の仔猫や繁殖に供する猫の診断に用いられます。

H.B.