「会陰ヘルニアの手術方法」 仙結節靭帯を用いる方法
酪農学園大学獣医学群 伴侶動物医療分野
廉澤 剛 先生
・この度は、実際の臨床現場で行っている会陰ヘルニアの手術手技とその注意点について講義して頂きました。会陰部の解剖、会陰ヘルニアの臨床症状及び診断から詳細に説明して下さったので非常に勉強になりました。まず会陰ヘルニアとは、肛門周囲の筋群の萎縮によって生じた筋肉の裂開部から直腸(変位/拡張/憩室)、小腸、膀胱、前立腺や腹腔内脂肪等が尾側へ変位する疾患のことです。肛門周囲の筋群萎縮の発生メカニズムは、現状では未だ明らかとはなっていないそうですが、雄性ホルモンが直接的に関与していると考えられています。そのため、多くは未去勢の雄犬に認められます。また未去勢の犬では高齢になると、ホルモン依存性に前立腺が両側性に肥大して、その肥大した前立腺が腹圧をかける一因となり、会陰部筋肉が裂開してしまうことがあります。他にも、よく吠える犬であったり、軟便や下痢など他の病気に継発してきたり、腹腔内に腹圧をかけるような腫瘤性病変が存在するケースでも認められることがあります。だから、会陰ヘルニアは必ずしも雌犬に発生しないとは限らないと頭の片隅にでも置いておく必要があります。まあ、ほとんどは雄で発生しますが…。また尻尾の短い犬種、例えばW・コーギ―やシーズー、ブルドッグ等の短頭種に好発すると考えられています。尻尾の短い犬種は、尻尾を振り回すことがないため尻尾周囲の筋肉、すなわち会陰部の筋群が衰えやすいことが要因と考えられております。ここで、会陰部を構成する筋肉として重要なのは外肛門括約筋、肛門挙筋、尾骨筋、内閉鎖筋等です。その周囲には仙結節靭帯、陰部神経、内陰部動・静脈など会陰ヘルニアの修復、手術で注意すべき解剖になります。会陰ヘルニアは、萎縮し裂開した筋群を縫合するだけではしっかりとした隔壁を再建・維持できないことが多いそうなので、仙結節靭帯を用いる方法や人工材料のメッシュを用いた方法などが行われています。今回、廉澤教授は仙結節靭帯を用いる修復方法を推奨されておりました。肛門全周を占める外肛門括約筋とその外側に存在する仙結節靭帯を縫合する方法です。イメージでは、筋肉と靭帯の強度を比較すると靭帯の方が強いため、筋肉と靭帯を縫合すると靭帯側へ筋肉が引っ張られ筋肉に負担がかかり過ぎてしまうのではないか?最悪のケースを想像すると筋肉がちぎれてしまうのではないか?思われます。実際に、術直後は確かに肛門が外側に突っ張った状態になりますが、術後、安定した状態になってくると突っ張っていた外肛門括約筋はその状況により良く対応して問題になることはないそうです。難しい内容ではありましたが、今回聴いた内容をしっかり頭に入れて今後の経験に役立てればいいなと思いました。
以上 D.T