南が丘動物通信

メトロノーム化学療法 14年04月20日

 獣医療における腫瘍の治療は、外科的なものから放射線、化学療法、免疫療法など多岐にわたります。なかでも化学療法は、多様な薬剤・プロトコールが検討されており、臨床現場において遭遇頻度の高いリンパ腫などは化学療法が最も有効な手段になりうるなど、現在の獣医療において化学療法の知識は欠かせないものとなってきています。その反面、従来の化学療法は副作用などで生体に大きく影響を及ぼす可能性や、施術者・動物のご家族への暴露の問題もあるなど、細心の注意が求められる部分もあります。そのようななか、従来の化学療法の常識とは異なるメカニズムに基づいたメトロノーム(メトロノミック)化学療法が近年注目されています。
 従来の化学療法では、腫瘍を最大限死滅させることを目的として副作用とのバランスを考えながら最大耐用量での投与が基本となります。化学療法剤投与後には生体の正常組織へのダメージを考慮し、休薬期間を設けることも多くあります。
 これに対してメトロノーム化学療法は、従来の化学療法剤を少量(具体的には1/10~1/3量)で頻回かつ長期間反復投与するというものです。1回投与量が少量なので副作用のリスクを軽減できるほか、腫瘍が増殖および転移に必要な血管新生を抑制することで腫瘍を休眠状態に誘導し、宿主と共存して延命およびQOLの改善を目指します。
 人医療では、ホルモン不応性の前立腺がんや再発性乳がん、手術不可能/転移性の軟部組織肉腫などに対して、メトロノーム化学療法は数多く利用されており、獣医療においても犬の軟部組織肉腫の症例に対してシクロフォスファミドを用いたメトロノーム化学療法の報告などが近年増えてきています。今後の臨床研究により、適応疾患や有効性の高い投与プロトコールの確立が望まれます。
H.B.