ネコの歯肉口内炎は、古くは難治性口内炎、リンパ球形質細胞性歯肉口内炎、慢性潰瘍性口内炎、口峡炎などとも呼ばれ、最近では口腔後部口内炎と呼ばれるようになっています。
発症原因は口腔内、特に歯垢中の細菌、ウイルス(カリシウイルス、白血病ウイルス、エイズウイルスなど)の関与、免疫反応の異常、バルトネラの関与などが疑われていますが、確定には至っていません。
症状としては、流涎、口臭、採食時の躊躇(ご飯の前に行くが食べない)、食事の嗜好性の変化(ドライフード→ウェットフード)、採食困難、嚥下困難、飲水時や採食時やあくび時の突然の悲鳴、口を気にする仕草(口をクチャクチャする、前肢でこする)、口腔内出血などが挙げられます。
治療は、まず口腔内衛生環境の改善として歯磨きが挙げられますが、口内炎のネコのほとんどは口腔周囲を触られるのに敏感になっているため、実際には困難である場合が多いです。次に侵襲性の低い方法として薬剤の投与が検討されますが、歯垢中の細菌はバイオフィルム内に存在するため抗生物質は効きにくく、ステロイド剤は反応こそ認められるものの、あくまで一時的に炎症を抑えているだけであり、長期投与を行うと続発性副腎皮質機能不全や糖尿病などに陥る危険性が問題となります。その他、ラクトフェリンやハトムギといったサプリメントの使用が炎症の軽減に効果的であることがありますが、実際にはこれら単独での根治は困難であるケースが多いです。
よってネコの歯肉口内炎の治療には、ほとんどの症例で麻酔下での歯科処置が必要となります。麻酔下での歯垢歯石除去は、歯周病が存在していない純粋な歯肉口内炎であれば歯垢や歯石を除去することで口腔内細菌量を一時的に減らし、口内炎の程度が改善します。しかし、この歯科処置を行った後に歯磨きを励行して歯垢の付着を防がなければ再発が起こってしまいます。つまり最終的に、歯磨きが行えないのであれば抜歯(全臼歯抜歯、または全顎抜歯)を行うことが推奨されます。
「歯を抜いても大丈夫?」と思われるかもしれませんが、そもそもネコは純肉食動物の歯列をしており、上顎臼歯と下顎臼歯は全てすれ違いの咬合で、すり潰すという機能を果たしてません。つまり、キャットフードを与えている限りドライフードであっても摂食は可能です。さらに抜歯に加え、炭酸ガスレーザーを用いて炎症部の蒸散を行い、歯肉部の再生を促すことによってさらなる改善が見込めます。
本疾患はどうしても内科的治療だけでは困難である場合が多く、最終的に抜歯という方法をとらなければならないのは抵抗があるという方もおられるかもしれません。しかし、嫌がるコを無理やり押さえつけて定期的に消毒薬で口腔内を洗浄したり、薬漬けにしたりすることを思えば、現時点で最も完治もしくは改善率の高い抜歯という選択は、ネコの気持ちを思えば間違ってはいないのではないでしょうか。