年に2回開催される日本獣医がん学会の第27回学会は、久しぶりの大阪会場での会場開催となりました。徐々に学会開催も以前のような形態になりつつありますが、ウェブ上でも講義の内容を再び聴講できるなど、以前よりも利便性も増してハイブリッド開催の良い側面だなと感じました。
メインシンポジウムは「がん終末期のケア」でした。終末期の動物の治療はさまざまな面でのケアが求められます。動物に対しては何より大事なのは苦痛を取り除いてあげることであり、それはがん治療に並行して実施することが重要です。緩和ケアという言葉は治療不可能な状態の子に行う治療という意味ではなく、がん治療と同時に行うことで生活の質を維持してあげるためのケアであり、これは人医療でも動物医療でも同じ考えに基づいていると感じました。また同時に動物だけでなく、飼い主さんへのケアも十分に考慮せねばなりません。やはり自分のワンちゃんや猫ちゃんが危ない状態に陥ったときに抱く飼い主さんのお気持ちは察するに辛いものです。人医療において、亡くなっていく患者さんといかに対話していくのか、現場に立ち続ける医師のお話を聞けて、とても胸を打つものがありました。
T.S.
今回は日本ヒルズ・コルゲート株式会社 奥田展子先生より皮膚ケア用の療法食として新発売された『オールスキンバリア』についてご講演頂きました。
診療で目にする皮膚疾患として、細菌・真菌感染、ノミ・ダニなどの外部寄生虫感染、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などが挙げられます。この中で食物アレルギーや環境アレルギーによる皮膚疾患においては、原因物質の特定のためにアレルギー検査をしたり、除去食試験の反応をみたりと個々のワンちゃんに合わせた療法食の選択に時間と費用がかかっていました。「オールスキンバリア」は、皮膚・被毛のケアをしながら、環境・食物アレルギーにも対応できる新たなフードの選択肢として期待されます。今回はオールスキンバリアの主な特徴を紹介します。
1つ目の特徴は、健康な皮膚を維持するために必要な栄養素が豊富に含まれていることです。皮膚のバリア機能の維持や役立つ必須脂肪酸(ω-3脂肪酸・ω-6脂肪酸)、ビタミンAや亜鉛などに加えて、抗酸化成分・ポリフェノール・卵を組み合わせた独自の栄養ブレンド"ヒスタガード"を含有しており、皮膚・被毛のための栄養素がたっぷり含まれています。
2つ目の特徴は、単一の動物性タンパク質として鶏卵を使用していることです。鶏卵は必須アミノ酸のバランスが良く、生物価が高い良質なタンパク質の摂取ができます。また、食物アレルギーの原因抗原として卵は稀であるため、より多くのワンちゃんに対応できます。
これまで「オールスキンバリア」を試したワンちゃんでは、引っ掻き行動が減少し、睡眠の質の向上や便スコアが良くなったという報告もあるそうです。
ただし、オールスキンバリアは既に卵アレルギーと分かっているワンちゃんにはおすすめされません。また、脂質が高いため膵炎の既往歴があるワンちゃんには推奨されませんが、あらゆる皮膚疾患でお悩みのワンちゃんに対応できる療法食の選択肢として期待されます。ご興味のある方はぜひ獣医師までご相談いただければと思います。
D.N
心腎連関
第117回日本獣医循環器学会・認定医講習会に参加してきました。その中で特に興味深かった一部の内容を報告いたします。
心臓と腎臓は互いに密に関連していることは明らかです。僧帽弁閉鎖不全症になると心臓に多大な負荷がかかり、その負荷を軽減するために利尿薬が必要な場合があります。利尿薬を使うと腎臓に負担がかかります。今回、心疾患患者の心臓と腎臓へのアプローチ方法を学びました。
まず、心臓病が悪化すると咳をすることがありますが、その咳は本当に心臓由来なのか?呼吸器由来ではないか?と見極めることから始まります。心臓への治療を行っても改善せず、呼吸器疾患だったという話もよくあります。
飼い主がペットの見た目の変化で気付きやすい点はリラックスしている時、つまり安静時の呼吸数です。(安静時:犬40回/分以下、猫30回/分以下)規定の回数を超えてくると呼吸が荒いと判断することもあります。その際はレントゲン検査がかなり有用となっており、判断基準となります。
また、心臓病は進行してくると腎臓病も併発するリスクがあります。心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしており、特に僧帽弁閉鎖不全症患者における慢性心不全では腎臓への血流不全による尿細管障害や腎血流量の悪化を招き、慢性腎臓病を発症させる可能性があります。
心臓および腎臓の管理のために現在の状況把握が大切になってきます。血液検査・超音波検査・尿検査や血圧測定が有用であり、それらに合った治療法がそれぞれあります。正しく把握して見極める能力が大切であると改めて認識しました。
H.F