動物には様々な病気になることが多々あると思われますが、特に心臓病は愛玩動物において死亡率の高い病気のトップ3に入るともいわれています。
今回、葉月会が主催している循環器専門の講演会および実習に参加し、より専門性の高い講演および実技を学びました。
講師は動物循環器病センターのセンター長を務めている、菅野先生です。本院においても以前から心臓外科症例を依頼させていだたいております。
まず、心臓の超音波検査をマスターするには、以下の3つが特に大事だと言われています。
①心臓の解剖学的特徴を把握する ②心周期を理解する ③最低限の基本断面3つを描出する
①と②に関しては座学になるため割愛しますが、➂のエコー下で断面を描出することはやはり日々の練習が大切だと思われます。
その中でも左室長軸断面、左室短軸乳頭筋断面、基部短軸断面は心機能を評価する上では必要最低限とも言われ、
左心房・左心室の拡大の有無が確認できるかどうかが大切になってきます。
もちろん心臓は4つの部屋があるため、残りの2つである右心系の測定も必要であり、講演会におきましては「肺高血圧症の診断と治療」を詳細に教えていただきました。
肺高血圧症(PH)とは平均肺動脈血圧が25mmHg以上の上昇を認める病態の総称であり、ヒト医療においては肺動脈へのカテーテル圧によって確定診断に至りますが、小動物医療においては難しく、三尖弁逆流が3m/sec(36mmHg)以上とも言われています。
実際には細かな分類があり、先天性であったり原因不明性の肺高血圧症もあります。
臨床症状は軽~中程度では無症状ですが、重度になってくると運動がしなくなったりお腹に水が溜まったりし始めます。さらには咳や失神、ふらつきまで現れる場合もあります。
治療には基本的には内科療法であり、さまざまな薬があります。似たような症状がある時はすぐにかかりつけの病院への受診を勧めます。
H.F
消化器疾患 検査データから病態を読む
鳥巣至道先生 宮崎大学農学部付属動物病院 消化器外科・内科
今回のセミナーでは消化器疾患のいくつかの症例をご紹介いただき、症例に対するアプローチのしかたや、考え方などを学びました。
1つ目の症例は『胆嚢粘液嚢腫』
胆嚢粘液嚢腫では通常手術は行いませんが、そのリスクにかんしてオーナー様に正しく理解していただき、緊急のサインを見逃さないようにしなければなりません。まず、胆汁は消化液であり、胆嚢破裂がおこってしまった場合には胆汁性の腹膜炎がおこり最悪場合死亡します。破裂しなくても胆管に胆泥が溜まってしまった場合は黄疸や肝臓の障害がおこる場合があります。緊急のサインとしては頻回の嘔吐や食欲の低下、活動性の低下、尿の色の変化などがあります。特に尿の色は通常の黄色から紅茶のような色に変わります。これらのリスクをしっかり理解し、サインを把握することでワンちゃんの体の異変にいち早く気づくことができます。
2つ目の症例は『腹水』
腹水はいくつかの原因によっておこりますが、今回のケースでは肝臓の機能低下によりアルブミンの産生が低下し血液中の浸透圧が低下することによる腹水貯留でした。肝臓は様々な機能を担う臓器ですが、アルブミンを産生するためには材料となるアミノ酸が必要となります。しかし、肝機能が落ちてしまうと体のアミノ酸バランスがくずれ、アルブミンを十分量生産できなくなり腹水が貯留してしまいます。よって、サプリメントなどで必要なアミノ酸を補給しアルブミンを作らせることで血管内の浸透圧を通常にもどし、場合によっては低ナトリウム食事療法によって血管からもれだした腹水を再び血管内に吸収させることができます。
肝臓は様々な機能を有しており、機能が落ちるといろいろな症状がでてきます。その症状にしっかり理由付けをし適切に処置していくことが大切であり、そのためには正しい知識が大切であることを学びました。今後の診察・治療に生かしていけるよう頑張りたいと思います。
K・G
講師 廉澤 剛先生 酪農学園大学獣医学群獣医学類 伴侶動物分野 教授 腫瘍科/軟部外科 科長
今回は腫瘍の治療における様々な選択肢についての講義でした。生体にやさしい全身療法が理想ですが、現在、理想的な治療補法はなく、腫瘍の部位、種類、広がり、腫瘍の状態に合わせたり、全身療法の利点・欠点を考慮して選択する必要があります。
治療の種類でも腫瘍の治癒を目指して、全身的かつ局所的に腫瘍を生体から排除する 根治的治療と、腫瘍の治癒を目指すのではなく、QOLの維持・改善を目指す 非根治的治療ー緩和的治療があります。
どの治療方法を組み合わせるのか、治療した場合と治療しなかった場合、外見を含めどの様に変わっていくのか、飼い主にきちんとしたインフォームが必要だと再認識しました。
今回の講義の知識で、もっと飼い主様に必要な説明や、治療の組み合わせを理解することができ、診療時に活かしていこうと思いました。
Y.N
菅野 信之先生
動物循環器病センター センター長
僧帽弁閉鎖不全症の治療について、内科治療と外科治療それぞれについてご講義していただきました。内科治療について、実際の症例で使用した薬について細かく教えていただきました。現在、アメリカ獣医内科学学会(ACVIM)の分類に基づいて治療を行っていきますが、その分類でも、たとえばステージCになりかけているステージBの症例についてはどうするのか、右心負荷が強いが、1回も肺水腫になったことになったことがない症例で利尿薬を開始するかどうか......、不整脈を伴う症例ではどうするのかなど、分類だけでは分けきれない症例について、実際に専門医の行った治療を考えることができるいい機会でした。
また、当院で、菅野先生を中心とした心臓チームの対外循環下での僧帽弁形成術を行っておりますが、その手術の内容についても菅野先生から直接知ることができて良かったです。
M.K