肺腫瘍の外科
酪農学園大学獣医臨床腫瘍学教室 廉澤剛先生
原発性肺腫瘍(腺癌、腺扁平上皮癌、扁平上皮癌、組織球性肉腫)ではほとんどが孤在性に病巣が発生するのに対して、転移性肺腫瘍では全身の様々な腫瘍の転移病巣が多発性に発生します。肺腫瘍の診断では、腫瘍の所在、浸潤性、血流の把握などを目的とした各種画像検査(X線検査、超音波検査、CT検査など)で得た情報をもとに、孤立性で摘出しやすい部位の病変は手術による摘除生検を、また摘出が容易ではない病変は針生検や試験開胸を実施し、病理組織学的検査を行います。手術では開胸を行うことも多いのですが、開胸する目的や病変の位置などによって側壁開胸術、胸骨正中切開術、胸骨横断両側開胸術などの開胸法を選択します。今回のセミナーでは、実際の症例の検査写真や手術動画を紹介していただき、肺腫瘍における診断、治療のポイントを具体的に学ぶことができました。
また原発性肺腺癌の肺転移病巣に対してリン酸トセラニブが奏功した犬の一例を紹介いただきました。リン酸トセラニブは様々な固形癌に対して抗腫瘍効果を期待できる近年注目されているマルチキナーゼ阻害剤ですが、紹介いただいた症例では、低用量シクロホスファミドメトロノミック化学療法やピロキシカム投薬療法と併用してリン酸トセラニブを使用していた点が非常に興味深かったです。
H.B.
僧房弁閉鎖不全症の診断・治療 後編
日本獣医生命科学大学 竹村 直行先生
僧房弁閉鎖不全症では末期になると左房の血圧が上がってしまうことにより、肺高血圧症が引き起こされます。肺高血圧症になると左心室だけでなく右心室にも負荷がかかり、右心系の肥大が助長されるほか、肺動脈の表面積が減少、更に左心不全を起こすと生命予後がそうでないものに比較して明らかな悪化がみられてきます。
今回はそのような肺高血圧についての基本的な知識と診断、治療についてお話しいただきました。診断に関しては心臓エコーを用いたもののほかにも、聴診・レントゲン、バイオマーカーを用いた確認方法についてどのくらいの信頼度があるのかについて文献を交えながら教えていただきました。聴診でも肺高血圧の診断に役立つことをお聞きして、定期的な心臓のエコーももちろん大切ではありますが、普段来院していただいた際にちゃんと聴診して今までとの変化を確認することが重要なことであると再認識しました。
S.A