小動物呼吸器病学(肺、縦隔、その他など)
日本獣医生命科学大学放射線学教室 藤田道郎先生
今回は肺水腫など呼吸器に関する疾患について講演していただきました。肺水腫とは肺の中に水が溜まった状態のことで、治療が遅れると命にかかわる病態です。肺水腫の原因としては心臓疾患に起因する心原性肺水腫と心臓疾患以外の原因に起因する非心原性肺水腫があります。心原性肺水腫は僧房弁閉鎖不全症や拡張型心筋症などによる左心不全が原因となる場合や急激な大量輸液により肺毛細血管圧の上昇により容量負荷がかかることが原因となる場合があります。非心原性肺水腫は喉頭部疾患などによる閉塞性や神経性、急性肺障害/急性呼吸窮迫症候群、溺水、煙吸引、薬物障害、酸素障害、アナフィラキシーなど原因は多岐にわたっているため治療が困難な場合があります。肺水腫になると、湿った咳が出たり、呼吸が速くなったり、口を開けて呼吸をするなどの症状が見られます。とくに夏の暑い時期では熱中症に続発して肺水腫を発症する場合があるのでこういった症状が認められた場合には注意が必要です。
Y.I
Mモード法とドプラ法の基本と心機能検査~パート2
宮崎大学 萩尾光美先生
第4回は、左側尾側傍胸骨四腔(心尖四腔)断面および左側尾側傍胸骨五腔断面の出し方をメインに学びました。これらの画像においては、ドプラ法を利用することにより大動脈部や僧帽弁口部で血流の方向や血流速度を計測することができ、それらの計測結果から心臓の拡張能の評価が可能となります。またその他の断面として右心耳を描出する断面も学びました。右心耳部は心臓腫瘍(血管肉腫)の好発部位であり、腫瘍の有無を評価するのに適した断面です。心臓エコー研修は今回が最終回でした。今まで学んだことをしっかり復習し、心疾患の評価法としての心エコーをより高いレベルで実践できるようにしたいと思います。
H.B.
葉月会 グリーフケアセミナー 2016
第2回 動物医療グリーフケアコミュニケーション
獣医師・グリーフケアアドバイザー 阿部 美奈子先生
今回、大阪で開催されたグリーフケアセミナーに参加させていただきました。ペットを飼う上で、沢山の楽しい時間を過ごせることはもちろんですが、ペットとの死別を避けることはできません。ペットとの死別によって深い悲しみに陥り、気を落とさせてしまう飼い主様が多くいらっしゃいます。そこでこのグリーフケアセミナーでは、ペットの生前から死後に渡って生じる飼い主様のグリーフ(死別による悲しみ)を、獣医師や看護師が傾聴・共感することによって、心の回復を支援していこうといった内容です。
そして今回の第2回グリーフケアセミナーでは、医療現場において飼い主様の抱えるグリーフを引き出すためのコミュニケーションについて学ばせていただきました。動物病院の受付や待合室で飼い主様が不安や悲しみによるボディランゲージを示していないか観察し、獣医師や看護師は診察や治療の際に声のトーンや表情、視線の動きなどの非言語的なコミュニケーションに配慮することは、飼い主様のグリーフを引き出すことにつながるのだと認識しました。
このセミナーを通じて、医療面への配慮だけではなく飼い主様の気持ちに寄り添った配慮やコミュニケーションを行えるよう、努めたいと思います。
M.T
知っておくべき最新トピックス あれこれ
一般社団法人 JVF 代表理事
一般社団法人 日本獣医学フォーラム 会長 石田 卓夫先生
今回は猫医学のうち、ワクチン、慢性腎臓病、糖尿病について講義して頂きました。特に慢性腎臓病は高齢の猫においては非常に発生率の高い疾患で、早期発見し治療を開始することが重要ですが、今までは尿素窒素(BUN)やクレアチニンなどの血液検査によって診断することが一般的でした。しかし、これらの検査はいずれも腎機能が25%以下にまで低下しないと異常を示さないということが慢性腎臓病を早期から発見し治療するということを困難にしていました。そういった事情からより早期に発見できるような検査が待ち望まれていましたが、この度IDEXX LaboratoriesにてSDMAという血液検査が可能になりました。SDMAは腎機能の直接的な指標となる糸球体濾過量(GFR)とより相関性の高い検査で、腎機能が40%以下になると異常値を示すと言われています。ある研究においては、猫では平均17か月、犬では平均9.5ヶ月クレアチニンの上昇より早期に異常値を示したとされています。今後当院でも積極的に検査していき、よりよい腎臓のケアを考えていきたいと思います。
T.H.
膀胱全摘術
酪農学園大学獣医学部伴侶動物医療部門 廉澤剛先生
今回は遭遇することの多い膀胱癌の手術についてのセミナーでした。犬の膀胱癌はなかなか根治を達成することが難しく、それは発生する部位(三角部)、再発しやすい、医原性の播種を起こしやすい、転移しやすいことなどが理由となります。三角部に発生が多い事から、膀胱の部分摘出が適用となる症例はそれほど多くなく、膀胱の全摘出も治療法のひとつになります。膀胱はなくなるものの、根治させられる可能性は向上します。膀胱全摘出を行う際には尿管をどこにつなぐかが問題となりますが、先生は尿管と尿道を吻合する方法を行っているそうで、さらに必要に応じて全尿道摘出も行っています。これは特に雄犬では前立腺尿道まで腫瘍が浸潤していることが多いからだそうです。
膀胱癌は手術だけでなく内科療法も適用となる腫瘍です。患者の状態に合わせたより良い治療法のご提案ができたらと思いました。
T.S.
僧帽弁閉鎖不全症の診断・治療(中編)
日本獣医生命科学大学 竹村直行先生
僧帽弁閉鎖不全症のある程度進行した症例では、安静時に咳が見られたり、肺水腫のような重篤な状態に陥る恐れがあります。そういった症例では、直接作用型動脈拡張剤やピモベンダン、利尿薬を使用するのですが、今回の症例では、それらの薬剤の作用機序や特徴、実際の使用例などを過去の様々な文献も交えて詳細に学ぶことができました。
また、犬の安静時呼吸数が40回/分以上であることは、犬の肺水腫の診断において感度・特異度ともに100%であるという報告を紹介頂きました。肺水腫の早期発見、早期治療は救命の点において非常に重要であり、僧帽弁閉鎖不全症を治療中のワンちゃんの飼い主様には、咳の様子や食欲などの一般状態のほかに、自宅での安静時呼吸数に注意していただきたいと伝えていくことが大切だと感じました。
H.B.
今回は獣医大学でも実施されている獣医医療面接を臨床獣医師のために実際の症例を用いた討論形式のセミナーでした。どのように緊急性をオーナー様に説明するかや緊急時に代理の方が来られた時、どのように対応するかなどありそうな場面を想定して討論し、多くの獣医師の先生方の意見が拝聴でき、どの対応が一番かを臨機応変に対応できるように日々考えていきたいと思いました。
S.K.