人における新型コロナウイルス感染症の初発は2019年12月のことです。早いようで、人類とこの感染症の付き合いは今年で4年目に入ります。COVID-19は感染症としての呼称であり、COVID-19の病原体の名称はSARS-CoV-2です。同じコロナウイルス科に属し2002~2003年に猛威を振るったSARSや、現在もアラビア半島で犠牲者を生んでいるMERSの病原体と近縁にあたります。SARS-CoV-2の起源は、キクガシラコウモリの体内で変異したウイルスがハクビシンに感染し、ハクビシンからさらに人へ感染が広がったことであるとされています。
SARS-CoV-2はアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)を受容体として結合し、宿主の細胞に感染します。ACE2はあらゆる哺乳類が共通して保有する酵素であり、人ではほぼ全身の細胞に発現しています。ACE2がコロナウイルス粒子とどれだけ結合しやすいかは動物種によって差があります。ネコ科動物がSARS-CoV-2への感受性が高いとされるのはこのためです。フェレットは猫よりもさらに感受性が高いとされ、わずか1000個のウイルス粒子で感染が成立するといわれています。
家庭犬でSARS-Cov2に感染したという報告は海外でいくつもあがっていますが、感染した犬が明確な症状を示したという報告はありません。一方、人から猫へ伝播したと思われる事例は国内でも発生しています。昨年は北海道のとある家庭の飼い猫においてデルタ株への感染と発症が確認されました。この猫の飼い主である家族もデルタ株に感染していました。猫が示した症状はくしゃみや鼻汁、目の充血でした。この症例では呼吸器症状に対する一般的な治療で一定の効果が得られたそうです。
重要なポイントは、人から犬猫に感染することはあっても、その逆はないということです。また、猫がSARS-CoV-2に感染した場合、ウイルスを排出する期間は約1週間とされています。人のウイルス排出期間が約3週間とされ、人の中和抗体保有率と猫の中和抗体保有率が相関していると報告があります。気をつけることがあるとすればペットと触れ合う前後の手洗いなど至極一般的な衛生管理です。また、猫の場合は人にウイルスをうつすことはなくとも外出した際に野生動物にウイルスをうつすかもしれません。野生動物に蔓延し変異を遂げたウイルスが回り回ってまた人間に伝播する可能性もないとは言い切れません。よって猫の場合は完全室内飼育が推奨されます。 S.R.
参考資料:『SARS-CoV-2について 1.新型コロナウイルスの総論~犬や猫に何がおこっているのか~ 2.新型コロナの猫感染全国調査・・・2020年時点では猫がどの程度感染していたか?』(動物臨床医学31(3)83-88,2022)