南が丘動物通信

犬における胆嚢粘液嚢腫 23年03月05日

春になりフィラリアの予防シーズンが近づいてきました。多くのワンちゃんにフィラリア検査と一緒に健康診断を受けていただいています。この健康診断で血液検査の異常値を指摘されたワンちゃんもいるのではないでしょうか?今回はワンちゃんでしばしばみられる胆嚢の病気をひとつご紹介します。

胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)という病気をご存知ですか?人における胆嚢疾患では胆石症という病気が多いようですが、ワンちゃんではムチンという粘性物質が胆嚢内に過剰に蓄積することによって生じる胆嚢粘液嚢腫という病気がしばしばみられます。胆嚢内に過剰に蓄積したムチンは胆管にも蓄積して胆汁の流れを阻害します。また、胆嚢が過度に拡張すると血流を圧迫し、胆嚢壁あるいは胆管が壊死・破裂し、内容物がお腹の中に流出することで胆汁性腹膜炎を引き起こします。胆汁性腹膜炎は胆嚢粘液嚢腫が引き起こす最も緊急性が高い病態であり、外科的な治療が必須になります。

胆嚢粘液嚢腫の診断には超音波検査いわゆるエコー検査が最も有用であるとされています。下の画像のように胆嚢の断面像が「キウイフルーツ」様の切り口に見えるのが典型的とされています。しかし実際には、病気の進行度によってさまざまなバリエーションの超音波検査画像があり、治療介入すべきかの判断に苦慮する場合もあります。最近の研究では超音波画像によって6つの病期・タイプに分類できるのではないかと報告されています。しかしながら、6つの分類と臨床徴候の有無や胆嚢破裂の有無に明らかな関連性が認められなかったとの報告もあります。この病気の多くは慢性経過をとり、無症状である期間も長いですが、重篤な合併症を引き起こすリスクもあるため病期の推定は重要になると考えます。超音波検査による診断精度の向上のため、さらなる研究・検討が望まれます。

また、胆嚢粘液嚢腫を起こしやすい基礎疾患としては脂質代謝異常症(高コレステロール血症・高脂血症)、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などが知られています。また血液検査では通常、ALPやGPTなどの肝酵素値の上昇が認められます。春の健康診断でこれらの様な異常値が見られたワンちゃんは超音波検査などの精査をおすすめします。

D.N

RIMG6930.JPG