播種性血管内凝固(Disseminated Intravascular Coagulation、以下DIC)は、様々な基礎疾患によって、全身の主として細小血管内に多発的にフィブリン形成(=血栓形成)が生じる病態です。DICが発生した場合には、血栓形成による臓器障害が大きな問題となると共に、血小板や凝固因子の消費および線溶活性化によって出血傾向となることも大きな問題となります。DICが発生している場合や発生しつつある状態においては、命に関わる状況に陥る可能性を考慮しなければなりません。
イヌにおいてのDICの発生を考慮すべき疾患としては、悪性腫瘍が代表的で、血管肉腫、乳腺癌、組織球肉腫、肝細胞癌、胆管癌、リンパ腫、肥満細胞腫、急性白血病などで多く認められます。その他、非腫瘍性疾患でDICが起こり易いものとして、急性膵炎、免疫介在性溶血性貧血、子宮蓄膿症、重篤な腸炎、敗血症、バベシア症、熱中症、胃拡張捻転症候群、交通事故、手術などが挙げられます。
DICの診断においては、血小板数の他、フィブリノゲン(Fib)、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリン/フィブリノゲン分解産物(FDP)、アンチトロンビン(AT)、D-dimerなどが測定されます。教科書的なDICの基準としては、基礎疾患の存在に加え、血液凝固線溶系検査6項目(血小板数、Fib、FDP、PT、APTT、AT)のうち4項目以上の異常値が挙げられていますが、検査項目が多く早期のDICを検出するためには基準が厳しすぎるという事から、昨今においてはDICを発生しうる基礎疾患があり、①血小板数の減少、②FDP値の上昇、③PTまたはAPTTの基準値の25%以上の延長、といった3項目のうち、2項目を満たす場合に「Suspected DIC」、3項目すべて満たす場合にDICとする基準が臨床的に有用であるとされています。この「Suspected DIC」の状況は、DICに進む途中の段階(=Pre DIC)に相当するものと考えられ、臨床的に重要な段階であるといえます。
DICは二次的な症候群であって、その背景にはDICを引き起こす基礎疾患が存在します。つまりなるべく早期に診断し、Pre DICおよびそれに入る前の段階での基礎疾患に対する強力で有効な治療を開始することがDICを治療することにつながります。DICが発生した場合は、抗血栓治療として低分子量ヘパリン、抗血小板療法として超低用量アスピリン療法、凝固因子や血小板を補充する目的として新鮮全血輸血または新鮮血漿輸血などが考慮されます。 T.H.