胆嚢粘液嚢腫は、ムチンを豊富に含んだ胆汁が胆嚢内に蓄積することによって胆嚢が拡張し、進行すると粘液物質によって総胆管の閉塞を引き起こしたり、過度の胆嚢の拡張で胆嚢動脈を圧迫することにより胆嚢壁の虚血性壊死を引き起こしたりすることによって、胆嚢破裂を引き起こす可能性がある疾患です。
胆嚢粘液嚢腫を形成する素因として、中~高齢、胆嚢の運動障害、原発性、特発性、二次性(膵炎、ネフローゼ症候群、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症などの内分泌障害など)の高脂血症や高コレステロール血症などが考えられています。胆嚢の運動性は、加齢性もしくはステロイドの影響によって低下すると考えられており、胆嚢内で胆汁が停滞することによって胆汁の濃縮が起こり、胆泥の形成が促進されます。この胆泥が進行すると胆嚢粘液嚢腫に発展する可能性が示唆されています。また、胆嚢粘液嚢腫の犬でABCB4遺伝子の変異が報告されており、遺伝子の変異が本疾患の病態に関わっている可能性も示唆されています。
胆嚢粘液嚢腫による臨床症状は程度により様々であり、また非特異的です。高頻度で見られる症状は、嘔吐、腹部疼痛、食欲不振、黄疸などです。胆嚢破裂まで引き起こした場合は、腹部疼痛や頻呼吸、黄疸などが顕著に認められ、腹膜炎が重度になれば腹水が貯留し、腹囲膨満が認められることもあります。
診断は、X線検査やCT検査によって診断できる場合もありますが、多くの場合は超音波検査で行われます。しかし、超音波検査のみでは重症度を評価することが難しいため、臨床症状や血液検査などと合わせて総合的に診断を行います。
治療は、胆道の閉塞がない場合とある場合で異なります。胆道閉塞がない場合は、基礎疾患がある場合は基礎疾患の治療を行い、あわせて食事療法、薬物療法が行われます。また、予防的に胆嚢摘出を行うことも治療の選択肢として考えられます。食事療法は、低脂肪、低炭水化物、(メチオニンが豊富な)高蛋白質の食事を頻回与えるようにします。薬物療法は、抗菌薬に加え、胆嚢の運動性を改善したり、胆汁排泄を促すような薬物が使用されます。一方、胆道閉塞がある場合は、上述の内科的治療は困難であるため、なるべく早期に外科的な胆嚢摘出を行います。
近年、胆嚢粘液嚢腫と診断される症例が増加してきています。動物の高齢化や肥満などが一因として考えられますが、初期の段階では無症状であり、むしろ症状が発現した段階では病態としてかなり進行した状態であることが多い疾患です。春の健康診断の一環として、腹部の超音波検査も取り入れてみてはいかがでしょうか?