動物は母親のお腹の中にいるときには胎児循環という特殊な循環経路を有しています。胎児循環は徐々に変化し、出生時にはほぼ胎児循環はなくなっています。しかし出生後も胎児循環の一部が残ってしまうという種々の疾患が存在し、そのひとつが右大動脈弓遺残症です。
この病気の主な症状は吐出です。食道の中心部が心基底部と肺動脈、左側が動脈管索(動脈管開存)、そして右側が遺残した大動脈弓により囲まれてしまうことにより食道が圧迫され、食物が通過できなくなってしまいます。そのためこの病気の動物は他の同腹子よりも成長が遅くなることがあります。
猫よりも犬のほうが多く、ジャーマンシェパード、アイリッシュセッター、ボストンテリアなどが好発犬種です。レントゲン検査で心臓の頭側部位で食道が拡張し、さらにバリウム検査により拡張した食道がより明確になります。慢性的な吐出により誤嚥性肺炎を引き起こした場合には肺炎の所見が現れます。内視鏡により食道の狭窄あるいは閉塞の他の原因を除外、また可能ならば画像診断により異常血管を検出します。
この病気の動物に食事を与えるときには高い台上に柔らかくした食事を置いて、立たせた状態で与えます(テーブルフィーディング)。重力によって食道から胃へと食物を送るように、10~15分は立たせたままにしておきます。しかし食道の機能が重度に低下しないうちに、早期に手術をして異常血管を結紮することが必要になります。手術後には吐出が少なくなりますが食道機能が完全には正常にならないこともしばしばで、その際は誤嚥性肺炎の危険は常に伴うこととなるため、十分な理解が必要です。