膀胱には移行上皮癌、腺癌、扁平上皮癌、横紋筋肉腫などさまざまな腫瘍が発生しますが、その中でも最も発生率が高いものは移行上皮癌です。移行上皮癌は尿管と膀胱の吻合部、すなわち膀胱三角部での発生が多く、好発犬種はビーグル、シェットランドシープドッグ、スコティッシュ・テリア、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアとされています。
初期症状は非常に曖昧で、膀胱炎と同様の症状を示し、血尿や頻尿がみられます。エコー検査にて膀胱壁の不整、腫瘤性病変が見られた際に膀胱の腫瘍を疑います。しかし、これらの病変は慢性の膀胱炎でも見られることがあるため、注意が必要です。診断は尿中に含まれる細胞での細胞診、または膀胱鏡などを用いて組織検査を行います。
膀胱の移行上皮癌は非常に悪性度が高く、治癒は困難な腫瘍です。しかし、様々な内科療法、外科療法により、QOLの改善、また生存期間の延長は十分に期待できます。まず、非ステロイド系抗炎症薬の一種であるピロキシカムがあります。ピロキシカムの投与により、難治性の血尿や頻回少量尿が消失した、膀胱の疼痛が消失した(?)など、ピロキシカム投与後に明らか症状改善がみられるケースは少なくありません。また、ピロキシカム単独投与により平均生存期間の延長も認められています。
さらに抗癌剤療法も有効性が示唆されており、今後更なる症例の蓄積によって、その有効性がより明らかになると思われます。
外科療法も様々な方法が報告されています。膀胱三角部以外の部位に発生した膀胱腫瘍に対して行われる膀胱部分切除術、膀胱三角部に発生した腫瘍によってすでに水腎症を合併している症例に対する尿管転移術、また膀胱を尿道ごと摘出する膀胱全摘出術などが報告されています。膀胱全摘出術は膀胱をすべて摘出するので蓄尿排尿という機能がなくなり、尿失禁となりますが、膀胱腫瘍の根治治療としてもっとも可能性のある術式だと思われます。