3月27日に葉月会にて前回の講演「猫の糖尿病」に引き続いて石田卓夫先生による「猫の甲状腺機能亢進症」に関する講演がありました。
甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンが過剰になってしまう病態を甲状腺機能亢進症と言い10歳以上の猫に多く発生し、犬では稀に甲状腺癌に伴って起きるとされています。
血中の甲状腺ホルモンが増していくと血圧が上昇し、腎臓への血流量が増えることで多尿が起こります。継続的な多尿は次第に腎臓を痛めることとなり腎不全へと移行してしまいます。他によく見られる症状としては多食多飲、体重減少、性格の変化(攻撃的、活動的になる等)などが挙げられます。このような症状が見られた場合、血液検査や画像検査を行うことで診断できます。甲状腺機能亢進症と診断し治療方法は内科的療法と外科的療法があります。内科的療法は甲状腺ホルモンの合成を阻害するチアマゾールと呼ばれる薬を継続的に服用し、血中の甲状腺ホルモン濃度を抑制するという方法です。外科的療法は甲状腺そのものを摘出する方法です。術後の管理として定期的に血中Ca濃度を測定し合併症が起きていないか確認する必要があります。甲状腺機能亢進症は特に猫において腎不全への移行を助長させるため早期治療が勧められます。
H.F
肺腫瘍の外科
酪農学園大学 廉澤 剛先生
肺における腫瘍は原発性のものと転移性のものとがあります。そのうち原発性のものはほとんどが孤立性、つまり肺の一部分だけに存在しており、手術をすれば長期間の生存を期待することができます。もちろん症状、リンパ節への転移、腫瘍の種類によってもその生存期間は様々ではありますが、生活の質を維持するという観点では有効なのではと思います。
今回のセミナーでは肺葉切除のための肋間開胸術のコツや、実際にどのようにして切除しているかについてビデオを用いてわかりやすく説明していただきました。
肺の腫瘍は咳や嚥下困難などしんどい症状を起こしてしまいます。しかしながら無症状だと普段の様子からはとても気づきにくい疾患です。年齢を重ねてきたら、1年に1回程度健康診断にレントゲンを撮るのもおすすめです。
S.A
犬と猫の乳腺腫瘍 ~知っておくべきこと、やるべきこと、やってはいけないこと
神戸ピア動物病院 長田 雅昭先生
乳腺腫瘍はメス犬では発生する腫瘍のうち半数以上を占める腫瘍で、メス猫では3番目に多い腫瘍であるとも報告されています。避妊手術の実地および実施時期が、乳腺腫瘍の発生と有意に関連していることは、1969年に報告されてから広く知られており、当院でも繁殖の意思のない動物に避妊を勧める理由のひとつとしてお話しさせて頂く機会も少なくありません。
そのような日常診療においてもある意味身近な腫瘍である乳腺腫瘍について、報告されたデータのまとめをふまえながら、外科手術を行った症例についての発表や、緩和的放射腺療法を実施した炎症性乳癌の症例についての発表も聞くことができました。
K.M
3月5日 葉月会セミナー
「循環器疾患の麻酔 ~Small Animals~」
佐野 洋樹先生(米国獣医麻酔学・疼痛管理専門医)
全身麻酔は健康な動物に対してであっても絶対に安全とは言い切れません。しかし、よりリスクを背負う循環器疾患を持つ動物でも、全身麻酔を伴う処置を行うべき場面は多々あります。事前に起こりうるリスクを把握した上で、状態に合わせた麻酔管理が必要となってきます。
たとえば、ヒトでは麻酔中に約3割で低血圧状態が発生し、1分間の低血圧で1年後の死亡率が3.6パーセント上昇するというデータがあります。他、腸管吻合の漏洩についても有意な差があると報告されています。低血圧は、麻酔中だけでなく、その後の合併症に関与する重大な合併症であり、術中の血行動態の把握およびその対応は大変重要になってきます。
今回のセミナーでは、小動物の様々な事態に対応するための麻酔薬の具体的な用量まで勉強させていただき、今後のリスクを背負った動物に対する麻酔に直接生かすことのできる実践的な内容のセミナーでした。
K.M